インド編 【ゴキブリの大国】 

第二話 FUCK  YOU! ジャマール君」

 

ニコニコ顔の現地ガイド、ジャマール君。その笑顔ゆえ一目見て好感度が高い。さわやかな笑顔での挨拶に、旅への期待はふくらんだよ。

「インド人は料理上手。食べることが好き。金持ちは色んなもの食べに行きマース。」

そうか、そうか。さぞかし美味しい旅行なんだな、今回は。三日間毎日宿泊地が変わるから、その土地の名物を食べ倒したるで。食いしん坊バンザイ。

・・・なんじゃこれは。

来る日も来る日もホテルバイキング。並んでいるものは、朝昼晩すべてカレー。

ロシアも単調な料理だったよなあ。でも、レストランでは追加料金で定番と違うものをオーダーできたし、町ではピロシキなどを食べたっけ。それでも僕とユージ君は飽きた。そんな僕らにカレーだけで三日間かよ!

便までカレー色になったよ。

「個人で支払うから、外のレストランに連れて行ってくれ。」

「あ、インド人は外食しません。」

「うぐっ!」

インド人もビックリ。今度は南利明になったよ。

ニコニコ顔のジャマール君、その笑顔と心の温度差は、化粧を落とした女房の素顔より大きい。

 

素敵なインド人ジャマール君はホテルから僕らを一歩も出さない。合理的な彼は、リベートも取れない面倒なことは一切しないのだ。バス内の案内もゼロに等しい。

出た〜い。外には明善同期生のような美人も沢山歩いているのに。ほんとか!熱はないのか、オイラ!

レストランらしきものの前を通り過ぎても「あれは違う。それも違う。インドにはレストランは無い」といささかも揺るぎ無く言い切るコイズミ・ジャマール。

インド語を読めないから、そのうち本当なのかもしれないと思うようになった。

そんな中、最終日のコースは飛行場直行だったのでホテルを利用できず、レストランに連れて行ってくれた・・・

「その代わり」と言いながらジャマール君は店からリベートをもらえる高額な(高級、では無い)お土産ショップには、全力で連れて行ってくれる。丁寧なので、何度も何度も。一回の旅行で強制お土産屋に7回も行ったのは初めてだ。3日で7店!なんと働き者のジャマール君なのだ。

日本から随行した添乗員・荒木君に抗議した。

「今日は6時間もボロバスに揺られ、これから飛行機に10時間も乗るというのに、たった2箇所の遺跡見物に3箇所のリベート店めぐりはやりすぎだろうよ?」

「とんでもない。お店めぐり4箇所を3箇所に減らしたんですよ。」

「・・・・・」

34歳と若いせいか、百戦錬磨の地元ガイド・ジャマール君の言いなりの荒木君。それとも筑後JTBへも店からリベートがあるせいなのか?

昔、地下鉄の電車は改札口から入れるのかどうかを考えると眠れなかった。今、旅行社のリベートを考えると眠れない。誰か旅行社のリベートのメカニズムを教えてくれぇ。

腹痛で苦しむ日本人のお客さんも、ジャマール君にとっては日本円にしか見えない。

「この店安いですよ。とっても良い品物ですよ。」

違うだろう、薬を探して来い!

 

毎日5時間以上のボロバスでのツアー。

でも車外にとんでもないものが過ぎて行くので、さほど退屈しない。

まず、道路。高速道路といっても人間が当然のように歩いている。

Pエリアでもないのに店もある。

中央分離帯はUターンでもできるかのように途切れている。

高速道路の定義がわからなくなった。

 

おんぼろバスは、ゆるゆるのハイウェーをひた走る。フルスロットル。トホホの90km。追越し時にはホーンを鳴らしっぱなしにするのがインド流。ホーンは安物で音がカスカス。水っぽいミが漏れた屁のような音を出して抜きにかかる。

おおっ、あのトラック、運転席がスケルトン(透けて見えること−透ける豚?)だ。

「テロがあった?ここはイラクか?」

 

どひぇ、これは何だ。やりすぎだろうよ。車体が全部スケルトンのトラックまで高速を走っている!エンジンはどこにあるんじゃ!ひょっとしたらゴム動力?

「・・・・・こんなもの、どうやって走っているんじゃ」

 

あれ、高速が渋滞している。何か遅いモノが高速をフン詰めている。何だろう?

おいおい、カンベンしてくれ・・・・ラクダに引かせた荷車が高速道路をふさいでいた。

高、速、だよな、ここ。

 

「高速のみならず街中にラクダ車は散見される。こりゃラクダ。あはは〜ぁ ・・・バカ」

 

「ギャア!」

 前方座席から悲鳴が上がった。

 こ、こ、高速道路なのに何台もの車が逆走してくる!自爆テロか!

皆興奮して立ち上がり前方を睨む。

緊張が走った。

じきにバンザイアタックの方程式が分った。横転したトラックが放置され進路をふさいでいたのだ。警察など来ない。

当然じゃあ、文句あっかぁ と、どの車もUターン。水っぽいホーンを鳴らしながら。

おおお、僕らのバスもUターンした!

どこへ行くんだ?

途切れた中央分離帯から対向車線に飛び込んだ!

 「今まさに対抗車線に入っていく・・・ミの漏れるホーンを鳴らしながら体当たり?でもなんてぬるい高速なのだ」

 

 無事日本に帰れるだろうか・・・

おふくろ、ひょっとしたら先立つかもしんねえぞ。