|
日本人の心の鼓動に触れる 岡林信康コンサート 1992年6月18日 日経新聞 文化欄掲載 1969年、反体制フォークの旗手として登場した岡林信康のコンサートを 福岡メルパルクホールへ聴きに行った。1992年の今日、彼がどうしているのかさえ、全く知らなかったからだ。 コンサートは、「日本人より日本的な」大好きなC.W.ニコルさんとのジョイントという形式で、観客は女性が7割以上だった。ニコルさんの誠実な語りと、 決して上手とは言えないが温かさあふれる歌が、アットホームな雰囲気のステージを作り出すうちに、岡林が登場。 顔を見て驚いた。信じがたいほど優しく、自然な顔をしているのだ。あんなに戦闘的とさえいえる歌を歌っていたのに・・ 歌いだしたとき、その理由が分かった。それはリズムだった。鼓動だった。 心臓の、それも日本人の心の中にある「エンヤートット、エンヤートット」という、あのリズムだった。多くの日本民謡の基本となっているこのリズムに乗せて歌う岡林は、名付けて「エンヤートット・ミュージック」だと言う。 何やらふざけた名のようだが、聴いているうちに自然に体が揺れ、とても気持ちがいい。ジャズやロックのアフタービートに浸かっていた耳には新鮮に、 そして何故か懐かしく、素直に揺れる体に自分でも意外だった。 以前、和太鼓を聴いた時もそうだった。その時はわけも分からず感動したが 思えば自分に流れる血や細胞に、じかに共鳴して震えたのに違いない。 共鳴で起きた波はうねり、高く、低く、不思議なやすらぎを運んできた。 バックの打楽器群は「サムルノリ」という韓国の伝統的なスタイルだが、これもうなずける。西洋のドラムでは、この場合はダメなのだ。 このスタイルを模索し確立するまでに、80年代の殆どを費やしたという。 実際、それまで毎年のように発表していたアルバムは八年間ぷっつりと途切れている。 45歳とは思えないほどの、パワフルでそれでいて自然な盛り上がりのステージに、知らぬうちに、穏やかな気持ちになっていくのを感じていた。 |