「作文」

94・2.20 

福井正登

 93年12月18日の土曜日の事である。夜、帰宅すると待ち構えていたように女房が、

玄関でこう言う。

「お父さん、識章に言うてやって!どげん思うね?明日映画見に行くって言いよるとよ。」

目をつり上げてサジを投げたように言い放つのである。(ああ、何かもめとる・・)

 識章とは、来春高校受験を控えた我が家の長男のことである。彼は悪いところだけ、私に非常に良く似ていて、決意はするがなかなか続かないことが多いのである。親子とは言え責任を感じる。食後、識章の部屋へ行きこう言う。

 「おまえはお父さんにあげん約束したろうが!一生懸命勉強する。入試が終わるまでは

脇目もふらずに頑張るって。なんち思いよっとや!」

 応えはない。むかっときて頭を一発殴る。応えない。だんまり戦術である。余計むかっときてもう一発殴る。沈黙がしばらく続く。

 「誰と行くとや、それも言えんとか!」横で女房が「○○ちゃんと行くっちゃろ?」

「帰って来たら勉強頑張るっちゃろ?約束するんやったらお母さんからお父さんに頼んでやるけん、はっきりそう言い。」

 母親というものはさっきまで怒っていた事はいとも簡単に忘れてしまう。特に父親が

本気で怒りだすと今度は子供側にすぐ回る。

「ほらっ、お母さんも一緒に頼んでやるけんはっきり言いなさい。」

     ・「明日、映画に行かせて下さい。・・」識章が初めてものを言う。女房が「お父さん、

行かせてやりい、勉強するげなけん。」

 なんということだ。ころっと言うことが変わってしまった。こうなると自分だけが悪人みたいに反対ばかりしていて、頑固なだけの親父に見えて来るから仕方がない。

 「もう知らん、勝手にせい!」

アホくさい。でも、少し嬉しい部分も感じる。この息子も当たり前に女の子とデートしたいと思っているのか。今まで子供だと思っていたが、女の子に興味を持ち始めたみたいだ。

少しばかり自分より早いが・・。

(まあ、行かせてやるか)でも、すぐには言えない。「知らん!」そう言って出てきた。

布団の中で考える。行かせていいがどう始末をつけよう。まさかニコニコしてはいられない。許すといっても言い方が問題なのだ。