カーネギーホールで完全燃焼を

フライング・エレファンツ

日経新聞文化欄 92年10月1日

江口義幸  

ザ・ビートルズ― この一言を聞いただけで、あふれる想いが突然、脳裏に渦巻く

症状を訴える患者たちは、多分現在(92年)40歳台の男盛り女盛りに多い。

こうしたかぶとむし症候群(ビートルズシンドローム)といえる人たちの中で、仲間たちと一緒にバンドなど組んだりしてしまうと、もはやこの病気は致命的。「フツーの生活」には戻れなくなってしまう。そんな、うらやましくもある男たちの中で、地元で活躍中のフライング・エレファンツが福岡の「マリアクラブ」にゲスト出演するというので9月20日に聴きに行った。

 彼らのステージは、ビートルズナンバーは勿論だが、オリジナル曲も数曲歌い、単なるコピーバンドだけではない味もみせてくれた。自分と同年代でアマチュアとして、こんなに長く続けてきた情熱にはただただ敬服してしまう。

 周知の通り、彼らはニューヨークのカーネギーホールで、コンサートをやるというとてつもない夢を実現できることになった。この事でも分かるように根強く温かいファンの支持があり、それを勝ち取るための努力も並大抵ではなかったろう。

 その事を重々承知でいえば、この夜のステージはちょっと、波に乗り切れなかった気がした。地元の壮行会など過密なスケジュールに追われ、やや疲れ気味ではなかったろうか。 帰りに、ビートルズに溺れている男たちとその話をしたが、彼らも少し首をかしげるところがあった、という。

九州のアマチュアバンドが、あのビートルズと同じカーネギーホールに立つというだけで、信じられないような驚きと深い共感を覚える。それだけに、我々の期待も、ついオーバーヒートしがちになるのもやむを得まい。それでも、彼らの夢の実現については心から惜しみない拍手を送りたい。

 カーネギーホールでは、あの二十歳台だった頃の、あふれる想いに全てをまかせ、真っ白に完全燃焼して帰って来て欲しい。           


 

注:この記事から12年が経った今年、12月25日クリスマスに、しかも久留米で

コンサートが開催される。いまから、血湧き、肉踊る想いを止められない。そのうえ、

彼らと一緒にステージをやるバンドのひとつが「ストライプス」同級生の末金雅宏・中野均が中心のバンドだ。末金がビートルズバンド・リバウンドシンドロームにかかった頃から知っている私としては、感無量である。 健闘を祈る!私は券を売る。