|
「褐色の風」に身も心も任せて スリー・ディグリーズ ‘92・8・13 日経新聞 文化欄掲載 思わぬアクシデントで遅れて、席に潜り込んだ時にはすでに、最終ステージが始まっていた。そして店内にはコーヒーブラウンのやさしい風がそよいでいた。 六月末、福岡は天神のブルーノートフクオカにスリー・ディグリーズを聴きに行った。その第一印象は「わりにおとなしいのかな?」だった。 ところが、ステージが進むにつれ彼女らの力強さがボディブローのようにじわじわと効いてきた。切れ味の良いテンポ、包容力のあるハーモニー、じっくりと聴かせるソロ、そしてやはり黒人系特有のエネルギッシュで急進的で、しかも、どこかもの哀しいサウンド・・。 これは、音ではなく「音色」という「色つきの風」だ。そう思った時、空気の中にコーヒーブラウンの色が見えた。 それにしても、さすがにプロ。ブルーノートの広さと観客数と性質とを全部見抜いているかのように、ユーモアを交え変化の波を創り出し、聴衆を捕らえて離さない。さらにラストにはかなりの客が立ち上がって体でリズムを取っている。それもごくごく自然にである。どこかのアイドルのステージのようにのべつまくなしに騒ぎ踊るのとは全然違うのだ。 聞く所では、アーティストによってブルーノートのムードはかなり違ってくるとのことだ。 この容器は中の液体が自由に動けるような工夫をしているのかも知れない。 アーティストが自由に波打ってこそ、そこにいる魚たちもまた自由に泳ぎ、また漂うことができる。私も魚になって泳ぎ、跳びはね、波に任せた。 ステージが最高潮に達し、彼女らの輝く肌に玉の汗が光る。三人の大きなうねりが生み出したコーヒーブラウンの風は、渦を巻き、幸福な魚たちの胸の中へ、深くゆったりと吸いこまれていった。 |